大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)1112号 判決

上告人(原告・被控訴人) 竹内勇

右訴訟代理人弁護士 海老名利一

被上告人(被告・控訴人) 香月千秋

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人海老名利一の上告理由一について。

原判決挙示の証拠によれば、甲第一ないし第四号証(本件約束手形)における被上告人名義の署名は自筆でない旨の原審の認定は是認できる。所論は、原審の専権に属する証拠の判断およびこれに基づく事実の認定を非難するものであって、援用できない。

同二、三について。

原判決挙示の証拠によれば、訴外富永恒宏の姻戚関係の認定は是認することができ、当該事実を含む原判示の諸般の事実関係のもとにおいて、本件手形上の被上告人名義の署名捺印は、富永恒宏が、被上告人に無断で、被上告人の手文庫の印を使用してこれをなしたものと推認するほかないとした原審の認定は是認できなくはない。所論は、原審の専権に属する事実の認定を非難するにすぎず、援用できない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

上告代理人海老名利一の上告理由

一、証拠の認定に重大なる過誤がある。

「控訴本人の供述ならびに同人訊問の際対照のため手記せしめた文書および宣誓書における同人の筆跡と甲第一号証ないし第四号証における同人名義の署名の筆跡とを対照した結果によれば右各甲号証における控訴人名義の署名は自筆でないと認められる(証人富永恒広の証言中これに反する部分は措信しない)。」甲第一号証乃至第四号証の振出欄中の被上告人の署名に非ずと認めその根拠として同人の裁判所に於ける筆跡と各甲号証の振出欄中の被上告人の署名とが同一でないからとの理由であるが各甲号証は昭和二九年四月十五日に作成されて居たものである、被上告人が裁判所に於ける筆跡は昭和四〇年に於て為されたものであるこの間十年余を経過して居り各甲号証の成立当時は被上告人は盛業にありその後事業上の失敗及健康を害して札幌市内より肩書地に移転したものである。

裁判所に於ける本人訊問に際しても病身的でありそれ故に十年前の筆跡と現在の筆跡とを一見して異なるからこれが被上告人の筆跡に非ずとすることは経験則に反するもので若しも之が判示の如く認定するに於ては鑑定の結果に依るのが相当である。

証人の富永恒広の証言に依ると各甲号証の被上告人の氏名は被上告人の署名と述べて居る。

被上告人と証人富永とは姻戚関係にあり相当に深い間柄にあってその署名を熟知して居るものである。

二、「右認定の諸事実に被控訴本人自身富永は狡猾であって信用できない旨供述している事実を考え合せると他にもっと蓋然性のある推定に導くような間接事実が証明されない限りは本件手形上の控訴人名義の署名捺印は富永が控訴人に無断で右の手文庫の印を使用してこれをなしたものと推認するほかはない従って富永自身のこれに反する供述は措信できない」被上告人の印を証人富永が無断で捺印したとの認定であるが証人富永が如何に狡猾であったとしても他人の印を盗用して有価証券の偽造行使する様な人柄でない特に被上告人の印を茶の間の手文庫より取出して各甲号証に捺印したとは如何にしても容易に推認することは困難であり被上告人は印を料理屋に忘れて居たことがあるのでそこで使用された旨も述べて居るものである。

被上告人が捺印したことを十年も経過した為に忘れて居るものであると推定することがえるものである。〈以下省略〉。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例